東京地方裁判所 平成5年(モ)3569号 決定 1993年10月15日
主文
一 破産者提出の本件申立書添付の債権者名簿記載の債権者の債権に関し、次の部分について破産者を免責する。
1 債権者乙山株式会社の破産者に対する債権の全額
2 債権者乙山株式会社を除く他の債権者の破産者に対する債権の本件決定確定時の元本・利息・遅延損害金の合計額のうち、利息及び遅延損害金の全額並びに元本の八割に相当する額
3 債権者乙山株式会社を除く他の債権者の破産者に対する債権の本件決定確定時の元本の二割に対する右確定日の翌日から一年を経過する日までの遅延損害金
二 その余について、破産者の免責を許可しない。
理由
一 本件申立ての趣旨は、「破産者を免責する。」との決定を求めるというにある。よつて審理するに、《証拠略》によれば、
1 破産者は、債権者約一八名に対して総額約七〇三万円の負債があり、これが支払不能であるとして破産の申立てをなし、平成五年三月一九日午後三時、破産宣告を受けるとともに破産廃止の決定を得たこと
2 破産者は、昭和五五年ごろから、生命保険の保険料の支払いができないことから借入れをするようになり、破産者の職業が歩合制の委託販売員であつて収入が不安定であつたことから負債が増加し、これにかなりの額にのぼる子供の学費の支払い等が加わつて、次第に借金の返済のために新たな借入れをする状態となり、毎月の返済額が月々の収入を上回るようになつて遂に破綻に至つていること
の各事実を認めることができるところ、収入が不安定であるにもかかわらず、収入に見合わない額の出費をなし、負債を増加させたことからすれば、破産者には破産法三六六条の九第一号、三七五条一号の免責不許可事由があるといわなければならない。
二 そこで、裁判所の裁量による免責の可否について検討するに、前記のとおり、破産者の破産の原因は、長期間の浪費というべき出費に求められること、その結果、破産者の負債総額は七〇〇万円に達していて、いわゆる消費者破産の負債額としてはかなり多額であること、破産宣告後において、負債額の一部を任意に弁済する等の、債務者としての誠実性を示すべき何らの行為もしておらず、生活を改善しようとする意志も認められないこと等の事情からすれば、破産者の免責を許可すべき特段の事情は必ずしも認められないというべきである。
三 しかしながら、破産者の浪費の内容の相当の部分を子供のための出費が占めており、この点は親の心情として理解できない訳ではないこと、破産者及びその妻は、現在滞納家賃を分割して支払つており、その負担(月額家賃と合せて一五万円)が相当にあること、債権者乙山株式会社から家財道具類に対する強制執行を受けたこと、破産者は現在も継続して稼働しており、その収入をもつて破産債権の全額を償うには足りないものの、将来、その一部について支払うことは不可能ではないこと等の事情からすれば、破産者に何ら誠意のある行動を求めずして破産者の免責を許可することは到底できないものの、破産者の免責を全部許可しないことも、破産者に酷に過ぎるものといわなければならないところであつて、このような場合には、破産者に対して、いわゆる割合的一部免責を認めることが相当であり、前記のような諸事情を考慮すれば、破産者に対しては、各債権者に対する破産宣告時における負債額元本の二割に相当する部分及びこれに対する本件決定確定後一年を経過した後の遅延損害金については免責を許可せず、その余の部分についての破産者の免責を許可することが相当である。
なお、債権者乙山株式会社については、既に破産者に対する破産宣告後の強制執行によりその債権額の一部の満足を得ているので、同債権者の債権については、その全額を免責することとする。
四 よつて、主文のとおり決定する。
(裁判官 松本清隆)